目標に向かって進みだした息子

「で、話って?」

和毅が箸を取りながら、こちらを見た。茜は俊也と目を合わせ、うなずき合う。

「和毅、昨日の話だけどな……」

俊也が、ゆっくりと言葉を選びながら切り出した。

「……悪かったな。頭ごなしに否定して」

和毅の箸が止まり、驚いたように父親を見つめた。

「でもな、その代わり、ちゃんと聞かせてくれ。お前、本気で大学に行きたいのか?」

和毅は少しうつむいて考え込む。やがて、小さな声で答えた。

「……行きたい。オープンキャンパスで、ロボット制御の体験をしたんだ。すげぇ楽しくてさ。もっと本格的に知りたいって思った」

いつもの無関心そうな和毅とは違って、目に光が宿っていた。俊也は黙って頷き、低い声で続ける。

「お前が本気なら……俺も応援する」

「ほんとに?」

和毅が信じられないというように目を見開いた。

「ああ。ただし、条件がある」

俊也の声には、父親らしい力がこもる。

「やるからには口先だけじゃダメだ。結果を出せ。努力を見せろ。それができないなら、話はここまでだ」

成り行きを見守っていた茜も横から口を挟んだ。

「そうよ。それに、今の成績で入れる大学なんてないんだからね。まずは基礎から。学校の授業、ちゃんとついていくこと。それが一番大事」

ちょっと厳しめに言ったつもりだったが、和毅はうなずいた。

「……わかってる。だから、まず模試を受けたい。自分のレベル、ちゃんと知りたいんだ」

俊也はその言葉に口元を緩め、にやりと笑った。

「いいだろう。その代わり模試を受けるなら、全力でやれ。あまりにも不甲斐ない結果だったら、やる気なしとみなすぞ」

「うん」

和毅は短く答えたが、その声には力があった。

茜は胸の奥に、じんわりと温かいものを感じていた。この子が、やっと何かに向かって歩き出そうとしている。今まで、特定の何かに興味を示すことさえなかった和毅が、自分で未来を選ぼうとしている。それが何より嬉しかった。

「じゃあ、食べよう。冷めちまう」

俊也が言い、3人で箸を動かし始めた。

その日の夕食は不思議と優しい味がした。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。