納得のいく会社に転職したが

最初は小さな印刷会社だった。同僚たちはみんな優しかったが、仕事は地味だし、給料もいいとは言えなかった。5年働いて転職活動をした。とにかく就職先を見つけたかった5年前とは異なり、今度は給料や賞与を重視した。第一希望とまではいかなかったが、それでも納得のいく今の会社に転職することができた。

この場所で、人生の遅れを取り戻すと決めた。だから、翔太はマネージャーや同期にならって人脈づくりに勤しんだ。

「お、筒井。お前、来週の異業種交流会行く?」

「あー、なんだっけそれ」

クライアントとのテレカンを終えて個室を出たとき、ちょうど出くわした同期に尋ねられ、翔太はスマホのスケジュールアプリを開いて目を通す。金曜の夜に、勢いのあるベンチャー企業の経営者数名が主催する交流会があると予定に書いてある。

たしか会場が六本木だか麻布のクラブを貸し切りで会費が15,000円だったために、行くかどうか迷って保留していた交流会だった。

当然の話だが、交流会やセミナーへの参加費は経費で落ちない。社内のゴルフコンペだって、打ち上げの飯くらいは上司が奢ってくれたりすることもあるが、自分や一緒に回る仲間が恥をかかないよう最低限揃えておかなければいけない道具やウェア、事前に練習しておくための打ちっぱなしなどにかかるお金は、自分の財布から出ている。外資系コンサルなだけあって、業界未経験の翔太であってもそこそこの給料がもらえているが、その出費は決して安いものではない。

「もちろん行く。てか、行かない理由ないでしょ」

翔太はスマホを操作して参加申し込みページを開き、素知らぬ顔で登録を済ませた。