露骨な嫁いびり

夕方、そろそろ出かける準備をしようかというタイミングで、義母はわざとらしく部屋の隅を見た。

「ねえ、晴子さん。ここのホコリ、なに? 掃除機かけといてって言ったでしょうが」

「あ、はい、今朝かけましたよ。でも、気になるなら帰ってからもう一度かけておきますね」

「それじゃ駄目、今からやるんだよ」

「えっ、でもこれから食事に……」

「いいわよ、来なくて。あんた、今日は留守番してなさい」

まるで、当然のことのように、義母が言い放った。

「帰るまでに、ちゃんと掃除しておくのよ」

家を出ていく2人の背中を見送りながら、晴子は黙って玄関を閉めた。

晴子はひとり、冷蔵庫の奥にあった冷やごはんとレトルトのカレーを食べた。食卓に並べる気にもなれず、ひとり台所の隅でプラスチックのスプーンを動かす。少し硬くなったごはんを噛み締めながら、胸の奥で何かが込み上げてくる。

「馬鹿みたい……」

簡素な食事を終え、ぼんやりしていると、電話が鳴った。時計は午後8時を少し回ったころだった。ディスプレイには、知らない固定番号。受話器を取ると、相手は早口で最寄りの警察署を名乗った。

晴子は戸惑いながらも、受話器の相手が語る話に耳を傾けた。

警官の口から「事故」という言葉が聞こえた。耳鳴りがして、周囲の音が一気に遠ざかっていく。

「……はい……はい、すぐに行きます」

手から受話器が滑り落ちそうになるのを堪え、震える手でメモを取り、財布と携帯を鞄に放り込む。胸が締めつけられるような不安と混乱の中、晴子は玄関を飛び出した。

●はやる気持ちを抑え病院に向かった晴子を待っていたのは変わり果てた二人だった。晴子は夫を亡くし、かろうじて一命はとりとめたものの介護が必要になった義母の世話をほとんど一人でしなければなくなってしまった。嫁に世話なしでは生きられない状態になってもなお、睦美の小言は止まらないのだが次第に変化がみられるようになり……。後編:【「これからはあなた自身の時間を生きてください」嫁号泣…亡き姑からの手紙に書かれていた悔恨の言葉】にて詳細をお届けする。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。