やっと頂上に到着

木波さんの背中の上でふいに視界がひらけた。

「……着きましたよ」

木波さんの声とともに、輝子は静かに彼の背から降ろされた。頂上、と呼ばれる場所は、思っていたよりも開けていて、空と山の境目が曖昧だった。雨上がりの空気は澄んでいて、呼吸するたび全身に新鮮な血が巡る。

「すごい……」

小さくこぼした言葉に、木波さんはにっこりと笑った。

「でしょ? これがあるから、やめられないんです」

先に到着していた他のメンバーたちも、こちらに手を振って駆け寄ってくる。

「佐藤さん、大丈夫ですか? 足の具合は?」

「2人とも疲れたでしょう。飲み物足りてます?」

輝子は恐縮しながらも、深く頭を下げた。

「……ごめんなさい。私が無理したせいで、みんなに迷惑かけて」

でも、誰も輝子を責める人はいなかった。

「いや、全然。いつも佐藤さんに助けられてるし」

「次は、準備運動してから来なきゃね」

「ていうか、次も来る前提なのね……」

そんな何気ない会話が、どれほど輝子の心を救ってくれたか知れない。

しばらく山頂で休んだあと、揺れるゴンドラに乗り込むと、誰からともなく「疲れた〜」という声が漏れた。

「みんな、本当にロープウェイで良かったの? だいぶ痛みも引いてきたし、私に合わせなくていいんだよ?」

「いやいや、佐藤さん1人だと心配だし」

「そんなこと言って、自分が疲れて歩けないだけでしょ?」

笑い声がゴンドラに広がった。輝子が外に目を向けると、雲が流れ、空が青く顔を出していた。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。