タイミング悪く雨も降りだし
ところが、1時間を過ぎたあたりから、鈍い痛みがぶり返しはじめた。登るたびに、足首が熱くなっていくのがわかった。仲間たちに気づかれないよう、息を整えるふりをして時折立ち止まる。こっそり持参した鎮痛剤も飲んだが、痛みは引くどころか、ますますひどくなるばかり。
そして、ちょうど中腹を過ぎたころ、空模様も怪しくなり始めた。やがて、雨脚は強まり、土の匂いが一層濃くなる。登山道はぬかるみ、滑りやすくなってきた。
「滑らないように、気をつけてくださいねー!」
先頭を歩く木波さんの声が飛ぶ。地面に足を取られ、何度もよろめきながらも、輝子は黙って前に進んだ。頂上までは、あと20分ほどだと励ますような木波さんの声が聞こえたそのとき――
「あっ……!」
わずかに足を滑らせた拍子に、痛みが爆発した。すぐに立ち上がろうとするが、右足が完全に拒絶反応を示す。輝子はその場に崩れ落ちるように座り込んでしまった。新しいウエアに泥がつき、掌には土と小石の感触がじかに伝わってきた。
「佐藤さん! 大丈夫ですか!?」
慌てて駆け寄ってきた同僚たちに囲まれながら、輝子はかすかに首を振った。
「ごめんなさい……ちょっと無理かも」
自分でも驚くほど弱った声が出た。悔しさと、情けなさと、そして恥ずかしさと。色んな感情が弾けて、目の前が涙でにじむ。
「無理せず下山しましょう。ここで無理するのが一番危ないです」
「じゃあ、私が佐藤さんに付き添いますよ」
そう誰かが言ったとき、木波さんが輝子の足の具合をチェックしながら口を開いた。
「いや、頂上まで行きましょう。あと少し登れば、ロープウェイで下りられますから」
そして輝子の前にしゃがみこみ、静かに言った。