<前編のあらすじ>
真澄と聡志が現在暮らす田舎町にやってきたのは2年前のことだった。病から求職を余儀なくされた妻・真澄を案じて聡志が移住を提案したのだ。
そして二人はこの町で喫茶店を営みながら、生計を立てようとしている……。だが、いまだに町の人々は二人の存在を"よそ者"として扱い、店にも人が寄り付かない状況になってきた。
そんなある日、真澄は買い物途中、一人の女の子を見つける。平日の真昼間である。本来なら学校で過ごしているはずの時間だ。聡志に聞けば、近所に住む不登校の子なのではないかという。
町で何度か出会い、ついに真澄は少女に声をかけた。名前は市子というらしい。びくびくしながら話す彼女に真澄が提案したのは、夫婦が営む喫茶店で、再び学校に通えるようになるよう練習をすることだった。
前編:店には閑古鳥が鳴き…働けなくなった妻のため田舎に移住しカフェを開業するも「よそ者扱い」された二人の元にやってきたのは
思いついたアイデア
夕食の片付けを終えたあと、カウンターの片隅でお茶を淹れながら、真澄は聡志に切り出した。
「ねえ、聡志。子ども食堂って……どう思う?」
マグカップをことんと置いて、聡志は真澄の顔をじっと見返した。
「子ども食堂?」
「うん。市子ちゃんみたいに、家にも学校にも居場所がない子。勉強も遅れてて、ちゃんとご飯を食べてるのかもわからない。そんな子たちが、放課後や休日に安心して来られる場所があればいいなって……」
「それってさ、今のまま、市子ちゃん個人を受け入れるだけじゃダメなの?」
彼の指摘は、およそ現実的で正しいのだろう。だが、このまま市子を店に入れ、食事を与えるだけでは、根本的な解決にはならない。
「市子ちゃんは不登校だから、目立っていただけで、似たような境遇の子はもっとたくさんいるはず。それにね……毎日、ご飯が食べられる、誰かと一緒におしゃべりする、誰かに勉強を見てもらう、あの子にとって、それがどれだけ貴重なことか、わかってしまったら、もう見てみぬふりなんてできない」
あの日の、あの所在なげな市子の姿を思い出すと、胸が痛んで仕方ない。真澄の震える声を、聡志は静かに聞いていた。
「私は何も大それたことをしたいわけじゃない。たとえば週に1度でも、子どもたちのための食事を出せたらって……それだけなの」