今度は学校で一緒に遊ぼう

「ねえ市子ちゃん、明日も来る?」

「もちろん」

「じゃあさ、今度は学校でも一緒に遊ぼうよ」

夏休みも終わりに近づいたある日、真奈が市子に言った。カウンターにいた真澄は、思わず手を止めた。カレーの鍋をかき混ぜていたおたまが、かすかに震える。

「……うん」

小さな声だったが、確かに聞こえた。

帰り際、真澄はレジのそばで彼女を呼び止めた。

「市子ちゃん、夏休みが明けたら学校行くの?」

「うん……約束したからね」

そう言って店を出て行く彼女の顔は、真澄が今まで見たどんな笑顔よりも、誇らしくて、まぶしかった。それから、町の雰囲気もほんの少しだけ変わった気がする。

「子どもが集まってるの、あの店でしょう?」

「市子ちゃんのこと、うちの子が話してたわ」

最初は閉鎖的だった地元の人たちが、子どもたちの後を追うように、「こもれび」に足を運ぶようになったのだ。

子どもがご馳走になったお礼だと言って、自分の畑で採れた野菜を袋いっぱいに持ってきてくれた保護者もいる。常連客が増え、町の中での「居場所」が、ほんの少しずつ広がっていくのがわかった。

まだまだ、経営は苦しい。でも、それ以上に、ここで生まれた絆が、真澄たちの心を支えている。

今日も、店の隅で、市子が友だちと宿題をしている。
真澄はその姿を見ながら、静かにエプロンのひもを結び直した。