夫の思い
しばらくの沈黙のあと、聡志はため息をついた。
「真澄、俺はさ……」
そして、ゆっくりとした口調で言葉を続けた。
「自分で言うのもなんだけど、結構ドライな方だと思ってるんだよね。自分と家族以外は、割とどうでもいいというか……あの子……市子ちゃんのことも、最初はちょっと面倒だなと思ってた。でも……」
「でも……?」
「今は、感謝してる」
「えっ……?」
「真澄はお人好しだからな。誰かの世話を焼いてるときが、一番生き生きしてるんだよ。あの子と一緒に笑い合ってるのを見て、これだって思った。俺たちがここに来た意味は、これだったんじゃないかって」
「えっと……やっていいってこと?」
期待するように問いかけると、彼は少しだけ笑ってうなずいた。
「最近、真澄が考え込んでるのは知ってたし……その代わり、経理と原価計算は俺がやる。ひとまず始めてみて、もし赤字が続いたりしたら、ちゃんと考え直そう。いいね?」
「うん、うん……ありがとう、聡志」
思わず目頭が熱くなり、真澄は慌てて俯いた。聡志が何も言わず、そっとティッシュの箱を差し出してくれるのがありがたかった。