たどり着いた義実家

義実家の門扉をくぐった瞬間、じっとりとした空気が肌にまとわりついた。長時間の移動で体は疲れていたが、気を抜くわけにはいかない。伸弥が寝ているベビーカーを玄関に押し入れながら、弘美は愛想よく声をかけた。

「こんにちは、お邪魔します」

「まあまあ、大変だったでしょう。よく来たわね」

出迎えてくれたのは、義母の瑛子。

儀礼的な作り笑いを浮かべて立っていた。その視線が、数秒息子へと向かい、すぐに弘美の手元の紙袋へと移るのがわかった。

「あ、これ……お土産です。よかったら召し上がってください」

尋ねられる前に、弘美は紙袋を差し出した。中には、行列に並んで手に入れた、高級食パンが一斤入っている。先日、たまたま職場の同僚から退職祝いのお返しでもらって感動し、ぜひ義実家にも持って行こうと、わざわざ手に入れたものだった。値は張るが、それだけの価値はあると思っている。

だが、義母の反応は、あっけなかった。

「へえ、これが1800円ねえ……でも、こんな高い食パン、無駄よねえ。うちの近所のパン屋も評判良いけど、一斤で500円も取らないわよ」

しまった、と思ったときには遅かった。紙袋のなかに入れっぱなしになっていたらしいレシートは瑛子の手の中にあった。引きつる笑いを浮かべながら、伸弥と荷物を抱えて家の中に上がらせてもらうと、義母がダイニングテーブルの上で食パンを取り出しながら言った。