<前編のあらすじ>
初めての子育てに奮闘する恵は、慣れないこともあってか体調を崩していた。
そんな恵のもとに義母の麻理が手伝いにやってくる。だが麻理は孫の面倒は見るものの、恵にはとげのある態度で接した。
リビングにはひな祭りを控え、キャラクターもののひな人形が飾られていた。「こんな安っぽいもので祝うなんて非常識だ」と、恵に嫌味まで言う始末である。
恵はこの一件を夫・隆一に愚痴るのだが、隆一は首肯はするも、お母さんっ子でどこか頼りない。結局「ちゃんとしたひな人形を買おう」と義母の意向に沿った隆一と共に、恵はひな祭りの準備をすることに。
そしてひな祭り当日に。麻理が家にやってきた。恵は麻理に文句を言われないよう、十分に準備をしたのだが、果たして……。
前編:「ダメじゃない、こんな安そうなの」体調不良で寝込むママの代わりに赤ちゃんの世話をしにきた義母が見つけた「許せないもの」
お義母さん来たよ
インターホンが鳴った。マンションのエントランスを映すモニターにはカメラを覗きこむ義母の青白い映像が映っている。ボタンを操作し、解錠する。
入口に向かって歩き出す義母を見送り、恵はリビングでYoutubeを見ている隆一に声をかける。
「お義母さん来たよ」
「おう。タイミング悪いな。日和、さっき寝たばっかりだよ」
隆一はスマホを置いて顔を上げる。玄関に向かう途中、ベビーベッドで眠っている日和の頬をつついてちょっかいを出す。
「起こさないでよ?」
「分かってるよ」
隆一は玄関に向かい、恵はキッチンに戻りちらし寿司を仕上げる。エビやレンコン、タケノコなどが入っているちらし寿司は縁起物らしいが、まだ歯も生え始めていない日和は当然食べられない。
ちらし寿司もひな人形も、結局は大人たちの自己満足でしかないんだよなと思いながら、刻んだ海苔を最後に散らした。
廊下の奥で玄関扉が開く。空気が流れ、心なしか部屋の温度が下がるのを感じる。いらっしゃい、という隆一の声のあと、不揃いな足音がふたつ、リビングに近づいてくる。