<前編のあらすじ>

望美の72歳の母は腰を悪くし、3年前から介護が必要な状態になっていた。できることなら老人ホームで暮らしてほしい。そう願う望美だが、「ここが死に場所」と、母はかたくなに実家から出ようとしない。

中学に上がった子供の世話をしながら実家に通い母の介護を続ける日々を続けることに、望美は限界を感じ始めていた。

前編:「待ってるのよ」と寒空の下庭のベンチに座り続け…“通い介護”の主婦を追い詰めた認知症気味の母の“不可解な”言動

日に日に弱る母

八つ当たりだと分かっていた。それでもどうにもならない。日々すり減っていく体力と気力は、もう限界なのかもしれないと思う。情けないが、これが望美の精一杯であり、現実だった。

「もうどうしていいか分かんないよ。お母さんがあの家にこだわるのは分かるけど、これ以上ひどくなるなら、耐えられない」

「まあ、誰でも年を取ると頑固になるって言うしな。あんまり無理するなよ。望美も若くないんだし」

寝室のベッドでぐったりと寝転ぶ望美の言葉に、帰宅した夫の孝がネクタイをほどきながら答える。

彼なりに心配してくれているのは分かる。忙しいながらも最大限家事をやってくれるし、家計に十分な余裕があるわけでもないのにデイサービスにかかる月々5万円を超える費用だって快く出してくれている。

だがそんな次元は、もうとっくに過ぎていた。些細な協力ではカバーできないほどに望美は切羽詰まっていた。

「無理するなっていうけど、そんなの無理だよ。無理しなくていいなら、最初からやってない」

「……ごめん」

「別に謝ってほしいんじゃない」

望美はベッドに潜って目を閉じた。孝は何も言わずにスイッチを押して照明を消し、寝室から出て行った。