娘たちは遺言内容に怒り心頭だったが…

恵子さんはペット信託や死因贈与契約を行っただけでなく公正証書遺言も残していましたが、恵子さんの息子さんと娘さんは親の財産は当然自分たちが承継するものと考えていたらしく、遺言が開示された時は怒り心頭だったようです。

それでも、熊倉さんは恵子さんの思いを実現すべく、遺言作成をサポートした弁護士さんと共に粘り強くお子さんたちの説得に当たりました。

息子さんの方は既にご主人の会社の全株式を受け取っていたこともあり、早い段階で相続放棄に同意したそうです。しかし、「猫ごときに信託までして、実の娘にはビタ一文残さないってどういう神経しているわけ」と一歩も引かない娘さんに対し、熊倉さんはこう言い放ったそうです。

「確かに、あなたにはお母さまの相続財産の4分の1を遺留分として請求する権利があります。でも、今になって権利の主張をするくらいなら、どうしてお母さまが生きているうちにもっとお母さまのところに足を運ばなかったんですか?お母さまは売れ残っていた猫を引き取ってかわいがり、紛争地の子供に思いを寄せる愛情深い方です。あなたが真剣にお母さまに向き合っていたら、遺言の内容は今とは違ったものになっていたんじゃありませんか?」

50代になる恵子さんの娘さんは、熊倉さんからすれば親世代です。後に「猫ごときにと言われて向かっ腹が立って」という弁明を聞きましたが、これだけの啖呵を切るのは勇気が必要だったように思います。

しかし、それが効いたのか、1週間ほどして娘さんも相続放棄に同意してきたそうです。

カトリックの教会で行われた恵子さんの葬儀には、私も参列させていただきました。全員で聖歌の合唱をし、順番に献花をするカトリックの葬儀は一般的なお葬式のように湿っぽいものではなく、神様が慈愛にあふれた恵子さんの人生を祝福してくださっているようで胸が熱くなりました。