財産を「本当に困っている人」に役立てるために
熊倉さんは大の猫好きで自身も猫を飼っているだけでなく、保護猫の居場所を確保する保護猫カフェの活動にも関わっていました。それが高じてペット信託の勉強をし、専門家として活動するようになったのだそうです。
まだ20代で恵子さんにとっては孫娘のような年齢でしたが、フットワークが軽く、恵子さんの願いをかなえるために忙しい仕事の合間を縫って東奔西走してくれる姿勢に好感を抱いたようでした。実際、熊倉さんの事務所はかなりの遠方だったのですが、月に2回は恵子さんの自宅に足を運んでいて、私も恵子さん宅で何度か顔を合わせたことがありました。
恵子さんはカトリック教徒の家に生まれ、普段から地域のチャリティ活動にとても熱心でした。最近復帰したアメリカ大統領には批判的で、いつものんびりしていて穏やかな恵子さんが「マイノリティの人権を尊重できない人に、人の上に立つ資格はない」と言葉を荒げたのを聞いて驚いた記憶があります。
そんな恵子さんですから、ご自分の財産は本当に困っている人のために役立ててほしいと考えているようでした。熊倉さんは恵子さんの意を汲んで多様な慈善団体を調査し、紛争地域や病気の子供たちを支援するNGO(非政府組織)などと死因贈与契約を交わしました。恵子さんに声をかけられてから半年もたたないうちにそれだけのことをやり遂げたのですから、本当に大したものだと思います。恵子さんも熊倉さんの仕事ぶりには満足そうで、「これでいつでも神の御許に行ける」と話していました。
そんな恵子さんが検査入院した病院で急死したのは今から2年前。“終活”を済ませた3年後のことでした。