何度お願いしても、辞めさせてもらえない

中村保彦さん(仮名・50歳)は、20代後半から建設業界で働いています。待遇は契約社員でしたが、業務内容は正社員と変わりません。数年後、意を決し、中村さんは「正社員になりたい」と上司に相談しました。しかし、「まだ早い」と断られてしまいます。

出張の多い部署に異動になってからは、1年の大半を海外や全国を飛び回ります。それも責任者の立場として、正社員の部下や関連会社の作業員を連れていきます。

正社員になれないので、中村さんは何年経っても、時給は上がらず、有給も使えず、社会保険にも入れてくれなかったようです。家賃補助も中村さんにはありません。出張の合間、ほとんど住んでいないマンションにたまに帰るたびに、家賃を払い続けているのがバカらしくなったといいます。

しかし、中村さんが辞めようとすると、上司は「君がいなければ会社が潰れてしまう」「どうかあと1年だけでも続けてくれ。その間に代わりを見つけるから」と引き止めてきます。温厚な性格の中村さんは、いつも情にほだされてしまいます。

気がつくと中村さんは50歳を迎えました。「このままでは一生、契約社員で終わってしまう」と焦り始めます。そんなとき、偶然、ネットニュースで退職代行サービスの存在を知ったそうです。ようやく、この生活から逃げだせると思ったといいます。

●後編【「こんな歳でも利用できますか?」Z世代のものだと思っていた退職代行を中高年が使い始めた“日本特有の事情” 】で、退職代行が中高年に広がる背景を詳説します。

※プライバシー保護のため、内容を一部脚色しています。