<前編のあらすじ>
50代の早苗はとある弁当屋で働いている。売り上げは芳しくない。理由は近場にできたショッピングモールである。同じ商店街にある商店も次々と閉店していた。
弁当屋を潰すわけにはいかない。その一念で早苗はパートを続けていた。
早苗には週に2回の楽しみがあった。弁当屋のイートインスペースを活用した子ども食堂である。貧しいため食事にありつけない子どもや、働く親を尻目に、一人孤独に食事をとらねばならない子どものため、栄養のある食事を届けることが早苗の生きがいだった。
しかし、そんな子ども食堂にも終わりの日が近づいてきた。原因は運営資金の中心を担っていた弁当屋の売り上げ不振だった。
何かできることはないか……。早苗は子ども食堂存続の道を模索する。
前編:再開発でできた大型ショッピングモールに押しやられ…子ども食堂を営む弁当屋にやってきた避けがたい危機
よく頑張った
SNSを使った宣伝や駅前でのビラ配り。早苗は弁当屋の売り上げを伸ばすためだけではなく、子ども食堂を助けてくれる支援者を募った。
しかし効果が上がったのかは分からず、少なくとも状況を変えることはできなかった。
早苗にはもう、子ども食堂閉店の投稿を作るほかにない。弁当の写真にスマホの画像加工アプリで〈お知らせ〉の四文字を配置する。キャプションには簡潔に、今月末で子ども食堂を閉めなければならないことと、感謝と謝罪の言葉を打ち込んだ。
しかたがない。しかたがない。
早苗は自分に何度もそう言い聞かせた。
その日、早苗が家に帰ると日曜だったこともあってか、家にいた竜次が食事を作って待っていた。
「どうしたの?」
驚く早苗をよそに、テーブルにカレーライスを並べた竜次は珍しくワインを出してくる。カレーにワインってどういう組み合わせなんだと思わなくもないが、早苗には竜次の気持ちがちゃんと伝わっている。
「……ありがとう」
「味の保証はできないけどね。さ、手洗っておいで」
早苗はテーブルにつき、食事を始めた。不格好な大きさの人参も、まだ固いジャガイモも、やたらと甘口のカレールーも、愛おしかった。夫が早苗のために作ってくれたカレーは、どんなカレーより美味しかった。
「早苗は本当によく頑張ったよ」
竜次の優しい声に涙がこぼれた。カレーがしょっぱくなるじゃない。頭に浮かんだ言葉は声にはならなかった。