米系運用会社キャピタル・インターナショナルが、法学部の学生を対象に特別授業を行う「Exciting Rogo Project」(エキサイティング ロウゴ プロジェクト)を実施している。プロジェクト開始から4年目となる今年は、「50年後の自分へ、“新入社員に老後に向けて資産形成を始めてもらうための法律案”を考える」をテーマに、全国4大学で授業を開催。

立教大学では6月上旬、法学部の島村暁代教授のゼミに所属する学生に向けて、全2回の特別授業が行われた。

老後資産形成に関する現状と課題

授業の冒頭、慶應義塾大学大学院 森戸英幸教授から、企業年金が退職金の一種であることや、企業が従来の退職金制度から企業型確定拠出年金(DC)への移行を進めている現状について説明があった。

慶應義塾大学大学院 森戸英幸教授による特別授業の様子
慶應義塾大学大学院 森戸英幸教授による特別授業の様子

森戸教授は、企業が従業員の老後資産形成を奨励する必要性について、「今の公的年金や企業年金だけでは単純に足りないから、ということがあるだろう」と指摘。さらに「企業にとってエンゲージメントという観点からもプラスになる。広い意味で愛社精神のようなものにつながる意味があるのではないか」と語り、従業員が老後の心配をせずに仕事に向き合うことが生産性向上につながり、ひいては企業価値を高めることにも寄与するとの考えを示した。

また「一人ひとりが将来をきちんと考えられる国民になっていくこと、持続可能な生活を送れる社会を目指すことが国の政策として掲げられている。“資産運用立国実現プラン”とも関係がある」と述べ、金融リテラシーの向上が日本経済の競争力アップやファイナンシャル・ウェルビーイングの実現にも貢献すると強調した。

学生からの反応と法律案の検討

続いて授業はグループディスカッションへと移行。学生たちが3つのグループに分かれ、それぞれにキャピタル・インターナショナルのプロジェクトメンバー(社員)が加わる形で、活発な意見交換が行われた。

学生とのグループディスカッションに参加するキャピタル・インターナショナル 小泉徹也社長
学生とのグループディスカッションに参加するキャピタル・インターナショナル 小泉徹也社長

初めに投資の基本的な事項への感想を求められると、ある学生からは「友人に投資をしてみようかなと相談したら、『絶対にやめた方がいい』と止められた」という体験談が明かされた。

また「銀行に預金をすることには不安はないが、投資をするとなると、自分のお金が遠くに行ってしまう感覚がある」「長期で投資をした方が良いことは知識として分かっているが、実際に取り組んだ時、本当に自分にそれができるのか不安」といった率直な思いが共有された。

一方で、別の学生は「初回授業で年金制度や社会保障制度の問題意識を改めて実感した。資産形成の重要性を認識し、自分も早速オンラインで証券口座を開設した」と実際に起こしたアクションを語った。

議論が企業年金に関する考察に移ると、学生からは「企業年金は転職したらどうなるのか」「福利厚生に企業型DCがある会社は、転職活動の際に魅力的に映るだろう」といった、現代の働き方に即した視点から意見が挙がった。

最後に森戸教授が法案のアイデアについて意見を募ると、「会社に健康診断を実施する産業医がいるように、お金の健康を診断する『お金のドクター』のような相談窓口があってもいいのでは」といった斬新な切り口も提案された。

森戸教授からは、法律を通じて人々の行動を誘導する方法として「ペナルティを課す方法」と「インセンティブを与える方法」が紹介され、税制上のメリットや社会的評価を通じて企業にメリットを与える仕組み、さらには行動経済学的な観点から「デフォルト設定」による緩やかな誘導方法なども議論された。

本プロジェクトは、公的年金制度だけではなく、自助努力による老後に向けて長期的な資産形成の重要性を学生に理解してもらうことを目的としている。

森戸教授は学生に対し、「みなさんにはこの先、老後まで40年、50年という時間があり、コツコツ投資していくことができる。法律案について学ぶことはもちろん、投資の意義を理解することも必要。今はお金がなくてもコツコツ続けていけば安心できる将来につながるのではないか」と語り、長期にわたって投資を継続する重要性を強調した。

キャピタル・インターナショナルによる特別授業は、6月19日に北海道大学でも開催され、今後は名古屋大学および岡山大学での実施が予定されている。日本の「貯蓄から投資へ」という変革期において、このような教育プログラムの意義は一層高まっている。