老後の生活を支える有力な手段の一つである確定拠出年金(DC)には、個人が加入するiDeCo(イデコ)と企業の従業員が加入する企業型の2つの制度があります。9月16日は2016年に個人型DCの愛称が「iDeCo」に決まった記念日です。両制度の活用と資産運用の必要性を考えるきっかけとして、FinaseeではNPO法人確定拠出年金教育協会の協力のもと、「iDeCo・企業型DCショートエッセイ」コンクールを開催しました。全国の皆さまからご応募いただいた「iDeCo」「企業型DC」に関するご自身の気持ちをつづった力作から、栄えある優秀賞に輝いたニックネームめぐみるくてぃーさんの体験談をお届けします。

父から娘へ、時を超えて受け継ぐ未来への「夢」

私がiDeCo(個人型確定拠出年金、イデコ)を始めたきっかけは、少し変わっています。

それは、実家の片付けを手伝っていた時に見つけた、父が若いころに使っていた「貯金箱」でした。さびてぼろぼろになったその貯金箱を振ると、カランカランと乾いた音がしました。中を開けてみると、100円玉や500円玉に交じって、古びたメモが何枚も入っていたのです。

「娘の大学資金、〇〇円」
「母との温泉旅行代、△△円」

父は、その時々で、ささやかな目標のためにお金を貯めていたのです。

そのメモを見た瞬間、私の胸にジーンとくるものがありました。父は、ただ漫然とお金を貯めていたのではなく、未来の家族のために、具体的な夢や目標を「見える化」して、お金をそこに結びつけていたのです。

その時、私はハッとしました。今の私は、ただ漠然と「老後のために」と貯金しているだけで、何の目標も、具体的な夢も持っていなかったからです。私は、父の貯金箱をiDeCoという現代版の貯金箱に置き換えて考えてみることにしました。

「老後の世界一周クルーズ代」
「親孝行のハワイ旅行代」

そうやって、iDeCoの掛金が引き落とされるたびに心の中で「未来の自分」に語りかけるようになりました。

「このお金は、将来のクルーズ船代だぞ!」とか、「このお金で、ハワイのおいしいパンケーキを食べるぞ!」と。

不思議なことにそう思い始めてから、iDeCoの運用状況を確認することがこれまでのただの数字の羅列をながめるだけではなく、未来の夢がどれだけ膨らんでいるのかを確認する作業に変わりました。

iDeCoは、私たちの「お金を積み立てる」という行為に具体的な「意味」を与えてくれます。それは父が昔、さびた貯金箱に未来の夢を託したように、私たちにとってもまた、自分の未来を自分でデザインするための大切な道具なのだと思います。

父の貯金箱は、今も私の部屋の片隅に飾ってあります。iDeCoを続けていく限り、この貯金箱は私にとって未来への羅針盤であり続けるでしょう。