疑念が現実となった出来事

そんな由奈さんの疑念はついに現実問題として表面化する。発端は父親の正さんが亡くなり、相続が発生したことだ。

正さんの残した遺産はもろもろあわせておよそ3000万円。生前に遺言書を作成しており、遺産の分配方法も指定していた。内容は姉弟で等分して分配すること、と非常にシンプル。不動産など計算のしづらい財産はなく、借金などマイナスとなるものもない。財産整理も済んでおり相続手続き自体に特筆して大変な部分はなかった。

とはいえ現金の占める割合が大きく、きちょうめんな由奈さんは間違いや正さん本人が把握し忘れている財産はないか確認をしていた。そこで、かねてより由奈さんが感じていた疑念が現実化するような出来事が発覚する。きっかけは預金通帳の流れを見ていた時だ。

数年ほど前から定期的に正さんから忠太さんに10万円単位で送金していた履歴が残っていた。直近では100万円ほどまとまった金額で送金されている記録もある。

焦りと驚き、そして自分だけ家族から話を聞いていなかったことで怒りが爆発。週末に忠太さんを自宅へ呼び出し、話を聞きだした。

「こんなことは聞いてないけど、どうなっているの?」

怒りをあらわにして由奈さんは問うた。対する忠太さんはといえば、「親父から助けてもらっただけだよ、子どもの学費とかもろもろ……」と悪びれる様子もない。

ここで由奈さんはあることを思い出す。忠太さんはここ数年頻繁に正さんと交流していた。「そういうことか」と由奈さんは言う。続けて「お父さんをだましてお金をもらってたの?」と尋ねる。父親は晩年、高齢で判断能力が弱くなっていたため、忠太さんが使い込みをしたのではと怪しんだのだ。

しかし、慌てて忠太さんが否定する。

「それは絶対にない! どうしてそんな考えになるんだよ。信じてよ!」

その態度が癇(かん)に障ったのか由奈さんはさらに激怒。

「何よその言い草は!」

その日は由奈さんの夫が仲裁に入り事なきを得たが、これは2人の間で相続争いが起こったことを意味した。

●仲が良かった姉と弟の間で勃発したまさかのトラブル……。果たして弟の忠太さんの使い込みは事実だったのでしょうか? 後編【「お父さんをだましてお金をもらってたの?」姉が弟にかけた使い込み疑惑…相続トラブルが迎えた意外な結末】で詳説します。

※プライバシー保護のため、内容を一部脚色しています。