相続争いは死後、遺産をどうするかでもめるだけではない。生前の行為が「財産の使い込み」に該当にあたるのでは? という疑念から相続争いに発展することもある。今回は、生前に行われた贈与が財産の使い込みにあたるとして争われたケースで、贈与の契約書が解決のカギのとなったケースを紹介する。

突然羽振りが良くなった弟…姉に生じた疑問

坂口家はどこにでもある地方の一般家庭だ。長女の由奈さん(仮名、以下同)は今年52歳の歳になる。今回私に話を聞かせてくださったのもこの由奈さんだ。そして由奈さんには少し歳の離れた46歳の弟、忠太さんがいる。

由奈さんと忠太さん、歳の離れた姉と弟ということもあり、両者の中は比較的良好。これまで夏や年末年始には両者の家族が一堂に会して、キャンプや宿泊込みでホームパーティーをすることもあるという。

仲の良い理由の1つに、お互いの家庭の経済状況や家族構成含めて近況が似通っているという点があった。しかし、そこを揺るがすような疑念が由奈さんの中で生じた。

弟の忠太さんのお金回りが急激によくなったからだ。もちろん生活レベルが一変するほどではない。しかし、これまでは会うたび、電話をするたび、ことあるごとに子どもの学費で悩んでいた忠太さんが全くその話をしなくなった。

それどころか突然前向きになり、「当面無理だ」と嘆いていた車の買い替えも行っていた。とはいえ、その疑念を表に出すことはなかった。弟の忠太さんのことを心から信頼してかわいがっていたからだ。