自分に対する疑心暗鬼が芽生えた
いつものように夕食の支度をしていた昌子は、子供たちを内線電話で呼び出した。
「もうすぐご飯できるから降りてきてー」
明はまだ仕事から帰っていなかったため、その日は3人だけの夕食。特に珍しいことではない。昌子が内線を切るとすぐに「おなか空いた」と言いながら佳織が降りてきたが、良太は一向に顔を出さなかった。
「まったく……部屋でゲームでもしてるのかな」
昌子がため息をつきながら言うと、佳織は首を横に振った。
「お兄ちゃん、今日は外で食べてきたらしいよ」
「えっ?」
その瞬間、昌子は腹の奥がカッと熱くなるのを感じた。外で食事を済ませるなんて、一言も聞いていない。昌子は長い階段を駆けあがって良太の部屋をノックすると、勢いよくドアを開けた。
「勝手に開けるなって言ってるだろ」
驚いて振り向いた良太は昌子の顔をにらんだが、言うことは言わないと気が済まない。昌子は、負けじと良太の顔を鋭く見返しながら言った。
「良太くん、どうして何も言わないで外で食べてきたの?」
「別に。金はいくらでもあるんだから、どこで何を食べたっていいだろ」
視線をそらして昌子に背を向けた良太は、さらにヘッドホンをつけて会話をシャットアウトしようとする。昌子は良太の肩をつかんで振り向かせた。
「全然良くないよ。良太くんが外で食べてくるって知らなかったから、私は人数分の夕食を準備して待ってたんだよ。それに外食ばかりじゃ栄養が偏るし、食費だってバカにならないでしょ? お金は無限じゃないんだから、もっと考えて使わないと……」
「うっざ。そういう考え、貧乏臭いよ」
反抗的な良太の態度に口を開きかけた昌子だったが、続けざまに放たれた彼の言葉が胸に突き刺さった。
「本当の母親でもないくせにしつこいよ。面倒だろうし、俺のことは放っておいてくれていいからさ」
「……そんなこと……思うわけないでしょ!」
とっさに否定はしたものの、昌子は自分に対する疑心暗鬼が芽生えていた。
確かに血のつながりはない。だがそんなことは関係なく、息子である良太を大切にしたいと思っている。そもそも明と親しくなったのは、互いに子持ちであることがきっかけであり、夫婦になってからも会話の中心は常に良太と佳織のことだった。そんな良太の存在を煩わしく思うはずなどない。
だが、良太から放たれたせりふに動揺している自分もいた。もしかしたら自分の心の奥底では、そんな感情が少しでも存在していたのだろうか。あるいは自分でも気づかないうちに、良太と佳織を比べるような態度を取ってしまっていたのだろうか。
絶対にないとは言い切れない気がした。
昌子はヘッドホンをつけて背を向けた良太の後ろ姿に、それ以上の言葉をかけることができなかった。
●まるで「母親とは認めない」と言わんばかりの良太。だが、そんな2人の関係に変化が訪れる。 後編【「中学生に月10万以上」夫の継子の“仰天金銭感覚”…距離を縮めたい40代継母が「息子に施したこと」】にて、詳細をお届けします。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。