母との日々を少しでも長く続けること

その後、母と一緒に作ったサンマのかば焼きは、懐かしい香りと共に食卓に並んだ。

あの頃と同じ甘辛い香りが部屋中に広がり、ひかりは泣きながらその味をかみしめた。こんなに心が温かくなる食事は何年ぶりだろう。

「おいしいね、ひかり」

母が突然、そう言ってほほ笑んだ。

ひかりのことを、久しぶりに名前で呼んだ気がした。

「うん……おいしいね、母さん」

介護の日々は終わらない。すり減る貯金はやがてひかりたちの生活を追いつめるだろう。だが、大切なことは母との日々を少しでも長く続けることだった。母に寄り添って生きることに、恥も外聞も存在しなかった。

「母さん、私、明日、役所に相談してこようと思う」

ひかりは母に告げる。母はよく意味が分かっていないのか、首をかしげてほほ笑んでいた。

複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。