家族3人で助け合うこと

朝、布団のなかで目を覚ました真子は、目覚まし時計の時間を見て青ざめる。7時15分。弁当も朝ごはんも、何一つ準備していない。飛び起きようとした瞬間、キッチンのほうからみそ汁のいい匂いとともに、張りのある声が聞こえてくる。

「2人ともー! 朝ごはんができたわよー!」

真子は安堵の息を吐く。キッチンへ顔を出せば、エプロン姿の善子がみそ汁とご飯をよそっていた。

あれから真子は実家を売り、善子とりんと3人で暮らすことにした。引っ越してきた善子は目に見えて心身の健康を取り戻していった。今では家計の足しになればと言いだして近所のスーパーで短時間のパートをしている。りんも献立のバリエーションが増えたと喜んでいた。

「おはよう、お母さん。ごめんね、作らせちゃって」

「いいのいいの。年寄りは早くに目が覚めちゃうんだから。ほら、遅刻するから早く食べちゃいなさい」

真子が席につくと、遅れてりんも起きてくる。3人はそれぞれに席に着き、両手を合わせて食事を始める。りんはご飯とみそ汁を交互に、あわただしく食べている。

「もう、りんちゃん。そんなに焦らなくてもいいのに」

今思えば、無理をしていたのは善子だけではなかったのだろうと思う。1人で抱え込まずに助け合う。そうやってもっと気楽に、肩の荷を下ろして生きればよかったのだ。

真子は懐かしい味をかみしめながら、壁にかかる時計で時間を確認した。

複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。