<前編のあらすじ>
真子(44歳)は、自分の母と同じくシングルマザーの道を選び、高校生の娘・りん(17歳)を育てていた。
りんは大学受験を控えていたが、元夫からの養育費は月4万円。真子は節約しながら働き、経済的にはとても裕福とは言えなかったが、母娘2人で幸せに暮らしていた。
ある日、真子は隣県で独り暮らしをしている母・善子(68歳)が道端で熱中症で倒れ、病院に緊急搬送されたとの知らせを受ける。病院へ駆けつけた真子を待っていたのは、やつれて変わり果てた母の姿だった。
●前編:「実年齢より何歳も年をとったよう」シングルマザーの老後、しばらく会わないうちに変わり果てた母に「起こっていたこと」
お母さん、どうしてこんな生活を…?
幸い善子は大事には至らず、病院で点滴治療を受けた後、数日で退院することができた。退院日当日、会社を休んだ真子は善子を実家へと連れて帰った。りんも祖母を心配してついて来たがったが、真子に説得され泣く泣く学校へと出掛けて行った。
車のなかでハンドルを握る真子は信号を待ちながら、助手席の母の顔を横目で見やる。何か声をかけようとしたが、言葉が見つからない。間もなく実家に到着した真子は、母を車から降ろし、見慣れた玄関の扉を開けた。だが、1歩足を踏み入れた瞬間、またもがくぜんとする光景が広がっていた。
かつての居心地の良さは見る影もなく、どこか暗くよどんだ空気が漂っている。ほこりっぽい匂いが鼻をつき、まるでサウナのように暑い。入院中の数日間だけでなく、相当長い間掃除や換気がされていないことが想像できた。
意を決して靴を脱いで部屋に上がると、空気の汚れに思わずむせ返りそうになる。家具の表面には白いほこりがうっすらと積もり、まるで時が止まってしまったかのように感じられた。