若かりし頃の義母
段ボールを開けると、中には古めかしいアルバムの数々が積み重なっていた。実名子は上から手に取り中身を確認していった。
最初のページは利喜が赤ちゃんの頃の写真が貼られている。かわいらしい利喜とうれしそうに義父が写真を撮っている。義父は実名子が嫁ぐ前に亡くなっていた。どんな人だったんだろう、話してみたかったな、などと感傷的な思いを巡らせながらページをめくっていった。
アルバムの中身はほとんどが利喜の成長記録だったが、一冊だけ、新書サイズの一回り小さなアルバムが段ボールの一番下に置かれていた。中を見てみると、若かりし頃の春江が友人たちと写真を撮っている。古い写真なので背景はよく分からないが、街並みを見るに外国らしい。
横にペンでハワイと書かれている写真を見つける。よく見れば、レイを首からかけている写真もあった。他にもいろいろなところに旅行をしていたようで、若い頃の春江は海外旅行が趣味だったらしい。
それは新たな発見だったが、肝心の日記帳は見つからなかった。結局、押し入れの中身から約束に関するものは何一つ出てこず、実名子が春江とした約束については分からずじまいだった。
部屋の整理を中断し、実名子は夕食を作る。国産の豚肉を使った野菜炒めだ。外国産の食品に健康被害があるとはいまだに思わないが、これからは春江の教えを少しくらいは真剣に受け止めてもいいだろうと思っていた。
食事を終えて晩酌をしているときに、実名子は日記のことを利喜に話してみた。
「へえ、母さん、そんなことを考えていたのか?」
「仲良くなろうなんてそぶり、見せたことなかったよね?」
利喜は2度、うなずく。
「なかったね。もしそんなことを言ってくれてたら、俺、間に入ったのになぁ」
「頼りになるかな?」
「なるだろ。どんだけ愚痴を聞き続けたと思ってんの」
「それでね、その日記の中でね、私との約束ってお義母(かあ)さんが言ってたの。何か心当たりある?」
「約束? そんなのしてたっけ?」
実名子は首を横に振る。
「うーん、そうみたいなんだけど、どうしても思い出せないのよ」
「だよなぁ。俺も全然分からないや」
利喜もお手上げのようだった。