義母と一緒に

季節が本格的な夏に入ったころ、長めの夏季休暇を取得した実名子は利喜と2人で空港にいた。

「いやぁ、いい天気でよかった」

「今度はもう財布をすられないように気をつけて」

利喜は苦笑してうなずく。

「なんだかんだ2人きりで海外行くの、初めてじゃないか?」

「そうね」

実名子はうなずいたが、これが2人旅ではないことを知っている。

胸につけてある真珠をあしらったブローチは、遺品整理をするなかで見つけた春江のものだった。かばんにしまったパスポートには春江の写真も挟んである。

実名子は初めてあいさつをした日の会話を思い返す。

「実名子さん、その節は本当にありがとね。利喜が迷惑かけて」

「いえいえ、全然気にしないでください」

「しかもそんな抜けた男を旦那にもらってくれるなんてね」

春江はいたずらっぽく笑い、利喜は苦笑いをしていた。

「そんな言い方しなくてもいいだろ」

「実名子さんも海外旅行好きなのよね?」

「はい、色んな国の景色を見たり、文化に触れるのが好きなんです」

実名子が熱量を込めて返事すると、春江は頰を緩ませた。

「じゃあ、いつか一緒に海外旅行に行けたらいいわね」

「はい、絶対に行きましょう!」

実名子はブローチを握った。

遅くなってしまった。間に合わなかった。だからこれは実名子の感傷で、後悔で、身勝手なつじつま合わせなのかもしれない。それでも、今日から始まるこの旅には、かけがえのない意味があると思った。

見上げた夏の青空に一直線、ひこうき雲が伸びている。

複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。