暑さが厳しい球場で
翌週から、いよいよ俊太郎にとって最後の夏が始まった。
仕事のない毅は当然毎試合、球場に足を運んだ。梅雨の長雨の影響もあってか7月に入った球場はとにかく蒸し暑く、選手たちはもちろん、応援しているブラスバンドや観客も全員大変そうだった。
俊太郎の高校は県内では強豪とされているだけあって、序盤は大差をつけて危なげなく試合に勝っていく。私立のシード校との対戦となった準々決勝は、守備のミスもあり接戦となったが、継投策が功を奏して見事に勝利することができた。
ただやはり俊太郎の出番はなかった。
「あら、今日もしゅん君は出なかったわね」
一緒に観戦していた佳枝が残念そうに話す。
「俊太郎は代打の切り札だからな。相手にデータを渡す必要もないし、ここ一番ってときに使うのさ」
毅はそう佳枝に答えながら、自分に言い聞かせていた。スタンドへのあいさつを終え、選手たちが引き上げていく。応援団も次の学校に場所を空けるため、すぐに動かなければいけなかった。
「よし、それじゃあ帰りましょうか? ……大丈夫? 顔色が悪いわよ」
「………何でもないよ。平気だ」
立ち上がるとき、体の重さを感じた。今まで感じたことのない重さだった。
バス停まで2人で並んで歩く。隣では佳枝が何かを話している。まるで遠くから声をかけられているくらい、声が小さい。
「ねえ、大丈夫?」
佳枝が声をかけてきたが、返事をする気力もなかった。
目の前にベンチが見える。毅はフラフラとした足取りで、ベンチに座り込む。
すると急に視界が真っ暗になった。
●孫の応援に精を出していた毅はついに倒れてしまった。俊太郎の球児としての夏はどうなる……? 後編【熱中症で救急搬送された祖父…心が折れた高校球児の孫を奮い立たせた「苦手を克服できるコツ」】にて、詳細をお届けします。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。