<前編のあらすじ>

彩花(46歳)は友人に勧められ、ヒアルロン酸注射の施術を受けてみた。しわが目立たなくなり自分でも信じられないくらい若返ったように感じられ、夫も喜んでくれて嬉しかった。

それ以降、リフトアップや二重まぶた切開など次から次へと美容整形に手を出すようになる。やがて、鼻の手術など大がかりなものにも手を出すようになった。

最初はきれいになった妻を見て自分も喜んでいた夫の進(45歳)だが、元の顔が分からなくなるほどに美容整形にのめり込んでいく彩花に我慢がならなくなり「お前の顔が変わったって近所の人たちもうわさしてる。恥ずかしくて表を歩けないよ」と言ったことがきっかけで、夫婦げんかに発展してしまう。

●前編:「夫が喜んでくれたから」プチ整形がきっかけでエスカレート、元の顔に戻れなくなった女性の「痛すぎる代償」

整形を勧めてくれた友人に相談

その日のけんかをきっかけに、家のお金は全て夫の進が管理することになった。もちろんこれは、これ以上彩花に美容整形を受けさせないために進が決めたことだ。彩花は進と結婚してからずっと専業主婦で、パートもしたことがない。独身時代の貯金はマイホームを建てるときに使い切ってしまったし、こっそりためていたヘソクリも全て美容整形で使い果たしてしまった。

つまり彩花は、自分で自由に動かせるお金を持っていなかった。毎月、進から最低限の生活費は渡されているものの、今まで持たされていた夫婦共用のクレジットカードも取り上げられてしまった。

(どうしよう……これじゃあ、整形が受けられない)

彩花は鏡で自分の顔を見ながらため息をつく。そろそろヒアルロン酸注射の効果も切れそうだし、目の下のクマも気になってきた。早くクリニックへ行かないといけないのに、彩花には先立つものがない。進に内緒でパートでも始めようと思い立ち、スーパーの面接に行ってみたものの、彩花は不採用だった。面接を担当した店長が、彩花を見て一瞬ギョッとした顔をしたのが忘れられない。

八方ふさがりになった彩花は、最初にヒアルロン酸注射を勧めてくれた舞衣子に相談をすることにした。賢い彼女なら夫を説得するための方法も心得ているかもしれないし、何より整形をしたくてもできない彩花の苦悩を分かってくれると思った。

いつものカフェで待ち合わせをして、先に着いた彩花はカフェオレを頼んで舞衣子の到着を待つ。舞衣子は待ち合わせ時間から数分遅れてやってきた。彩花は入り口付近で店内を見回している舞衣子に向けて手を振った。

「舞衣子、こっち!」

声に反応して彩花のほうを向いた舞衣子は元々大きな目をさらに見開いた。

「ちょっとちょっと……! 彩花、あんた鼻もやったの、いや、え、え?」

さすがは舞衣子だ。ちゃんと気づいてくれる。うれしくなった彩花は顔のどこにどんな施術をしたのかを得意げに話してみせる。しかし彩花が話すたび、舞衣子の顔はぎこちなく引きつっていった。やがて舞衣子がつぶやいたことが決定的となった。

「いや、さすがにやりすぎだよ」

「……うちの人と同じようなこと言うのね」

「旦那さんはさ、元の彩花が好きだから整形を止めたんじゃないかな。最初に勧めちゃった私が言うのもなんだけど、やりすぎはやっぱりよくないよ」

舞衣子の忠告も、整形にとりつかれた彩花の心には響かなかった。むしろ自分の整形を止める舞衣子のことを憎いとさえ思った。きっと私がきれいになっていくことに嫉妬しているに違いない。自分の地位を脅かすんじゃないかと、怯えているに違いない。

とはいえ舞衣子は、相変わらず若々しく美しい。まだ彩花は程遠い。そう思ったら自分の醜さが許せなくなった。嫉妬と羞恥心に耐えられなくなって、舞衣子から逃げるように家に帰った。恐る恐る鏡の中をのぞいてみると、そこに映っていたのは顔に醜いシワやたるみが目立つ中年女の姿がある。

彩花は悲鳴を上げて床にへたり込み、何時間も泣き続けた。