特守の後のどんぶり飯
家に帰ると、妻の佳枝が料理を準備していた。
「お帰り。もうご飯できてるわよ」
帰ってくる時間がまるで分かっていたかのようなタイミングだ。
「ああ、ありがとう。手を洗ってくるよ」
それから毅は食事を取りながら、俊太郎の状態について佳枝に報告した。佳枝は野球には全く興味がなかったが、それでも元気そうな孫の話をうれしそうに聞いていた。
食事も終わりかけたころ、玄関のチャイムが鳴った。
「誰だこんな時間に」
毅は眉間にしわを寄せ、インターホンの画面を見る。するとそこには俊太郎の姿があった。毅は一目散に鍵を開ける。するとそこには泥だらけの練習着を着た俊太郎がいた。
「おお、どうかしたのか?」
「今日、母さんも父さんも帰り遅いらしくってさ、ちょっと飯食わして。腹減って死にそうなんだ」
「そうか! ばあちゃんに言ってくるよ」
佳枝に事情を伝えると、すぐにご飯を温め直して用意してくれた。俊太郎は目の前に出された料理を前のめりに頰張った。
毅が現役だったとき、特守のあとは米粒1つすら喉を通らなかった。特守をこなしたあとであってもどんぶり飯をかき込めることもまた、俊太郎の代にかけられる期待の根拠なのかもしれない。
「おじいちゃん、そういえば今日も来てたでしょ?」
「えっ、気付いてたのか?」
「うん、毎日来ててさ、飽きないの?」
「孫が頑張ってるところを見られるんだから、飽きるわけないだろ」
毅がそう言うと、俊太郎はうれしそうに笑った。
「俺、今年はようやくレギュラーだから。今年こそ甲子園行くからね」
俊太郎の発言に気負ったところは全く感じられなかった。
その自然体な様子がとても頼もしく思えた。