“子持ち様”の本当の理解者は…

稲山が、そのような態度になった理由について、愛美が聞き出したところによると、愛美の欠勤について、サブ・リーダーの吉田美代やグループのメンバーに話を聞いたところ、グループで愛美のことを悪く言う人間は一人もいなかったという。むしろ、吉田は毎日丁寧に作業手順についてノートをつけてくれていて頭が下がるというし、グループのメンバーも愛美からサポートしてもらっていて助かっているという。ただ、愛美が休むと愛美と同僚の沙知が先輩面をしていろいろと指図することが嫌で仕方がないという。沙知が絡んでくると、作業の指示はいい加減で、サポート作業も雑で業務が遅れるのだそうだ。

さらに、愛美が子供のことで欠勤することを沙知は「子供を使ったズル休み」、「子持ち様」等と言い敵視するような態度をとっていて、美代たちは沙知に不快感を持っていた。「子供を持つ母親になっても自分の技術を活かして働きたいと思っている彼女らにとっては、副島さんがロールモデルになっているようだ。副島さんが働きやすい職場にしてほしいといわれたよ」と稲山は言った。

人事総務部としても、女性に働きやすい職場づくりというのは大きなテーマになっていて、愛美に提示した処遇は、そもそも第2工場建設が決まった時から用意されていたポストだった。そこにちょうど愛美がはまったということらしい。

投資を中断することなく続けられ、精神的にも安定

愛美は、働き続けることになった。自分が頼りにされ、メンバーから必要とされていることを知って、愛美の職場に対する感じ方が大きく変わった。研修担当にもやりがいを感じていた。しかも、第2工場は愛美の自宅に近く、通勤時間が30分ほど短くなった。行き帰りの30分の短縮は、今まで時間に追われるように生活していた愛美の日常を劇的に変えた。

その新しい仕事についてから、不思議と優斗が発熱することがなくなっていった。いったい、あの追い詰められたような日々は何だったんだろうと、愛美は当時を振り返ってみたが、何が自分を追い詰めていたのかよくわからなかった。NISAの積み立て投資は継続することができたが、株価がグングン上がって目に見えて資産が積みあがっていった。積み立てを中断しなくてよかったと思った。そして、元気に保育園に通う優斗を見ているだけで身体の奥底から喜びが吹き上げてくるようだった。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。