<前編のあらすじ>
病気で妻の晴美(55歳)に先立たれた一郎(53歳)は失意のなかで葬儀などを終えた。2人のあいだに子どもはおらず、両親も他界している一郎は天涯孤独になった。仕事を休職した一郎は妻との思い出の場所を巡りながら、もう生きる意味などないのでは……と考えてしまうが、妻の遺品のなかから一通の手紙を見つける。
●前編:「まだ生きていますか?」失意の夫を劇的に変えた亡き妻からの「手紙の内容」
亡き妻から与えられたミッション
晴美は全てを見透かしていた。一郎が自ら死を選びかねないことを悟っていた。
手紙のなかで晴美は一郎の選択に共感をしながらも、生きていてほしいという思いをつづっていた。
一郎はその場に座り込み、子供のように泣きじゃくった。
何て情けないことをしていたのだろう。
自殺の方法を調べては却下している今だけではない。一郎は晴美が重い病気になってから、悲しみに暮れる姿を見せ続けてきた。
晴美が安心して先立つことすら、させてやれなかった。
一郎はひとしきり泣いた後、手紙をリビングに持って行き、そこで腰を据えてゆっくりと読む。
晴美の言葉の1つ1つがとても温かく、一郎は大事にその言葉を味わいながら読んだ。
手紙の最後に晴美は「保健所の犬を引き取るように」と書いてあった。
晴美は犬が好きで、常々飼いたいのだと言っていた。だが、晴美は犬アレルギーで、ついに晴美の生前に犬がわが家の一員になることはなかった。
すぐに最寄りの保健所の場所を調べた。一郎は翌日朝一番に保健所へと向かった。
もう、自殺のことなんて頭の中から消えていた。