悠輔の未来
それから数日後、台所に向かって晩ご飯を作ろうとしていると、悠輔に話しかけられた。
「ねえ、話があるんだ」
「え、ええ」
いきなりのことに驚いていると、悠輔は無表情のままテーブルに座る。
「どうしたの?」
「これ、見て」
悠輔は数枚の紙を渡してきた。そこにはプロゲーマーへの道というものが書かれてある。
「プロゲーマーって知ってる?」
「何か、聞いたことはあるけど……」
「ゲームをやってお金を稼ぐ人たちなんだ。それでね、このプロゲーマーっていうのになりたいって俺は思ってる」
麻友は驚いた。ゲームが好きだとは思っていたが、その道に行こうとしてるとは。
「プロゲーマーって、なり方はいろいろあるんだけど、基本的なプロのチームがあるから、そこに所属するのが普通なの。スポンサー収入で稼ぐっていうやり方ね」
「へえ、そういうのがあるのね。野球とかサッカーチームみたいなものね」
「他にはそこに書いてあるとおり、大会に出場して稼ぐっていう方法ね。eスポーツの大会って世界中で行われていて、優勝賞金が30億くらいの大会もあるの」
「さ、30億⁉」
悠輔は当たり前のようにうなずく。
「そう。それくらい世界では活発に大会が行われていて、もちろん、数百万とかもっと低い賞金の大会もあるんだけどね」
「す、すごい世界ね……。ゲームで30億って」
「国内でも3億円の賞金がかかった大会とかあって、スゴいレベルが高いんだ」
麻友はそこでおもいきって質問をしてみた。
「でもさ、そんなの優勝するの大変なんじゃない?」
「そうだね。メチャクチャ大変だよ。だって競技人口は何億人っている中で優勝しなくちゃいけないし」
「そうよね……」
麻友は不安な気持ちに襲われた。
「それでね、次のページをめくってみて。でもね、賞金、スポンサー収入以外の稼ぎ方があるの。それが動画配信の収益」
そこには知らない名前の人たちが数多く羅列されてある。
「その人たちって国内で有名なプロゲーマーの人たちなんだけど、大会の獲得賞金だけじゃなくて動画配信者としても稼いでいるんだ。You Tuberって今、すごい人気だろ。そこの一大コンテンツがゲーム配信なんだ」
「……なるほどね。いろいろな稼ぎ方があるのね」
「そう。プロゲーマーって1つを取っても、稼ぎ方は千差万別で、大会とかに出ずに配信で稼いでいる人もいるくらいだから」
資料を見せながら、たどたどしくも必死で話している悠輔に麻友は感動を覚えた。
「でも、どうやってプロゲーマーになったらいいの?」
「まずは高校に行きたい。プロゲーマーを育てる専門の高校があるんだ」
資料を見て、麻友はもう何度目か分からない驚きを覚える。ゲームの世界とはここまで進んでいるのか。
「それでね、俺、そこに行きたい。編入して、そこで腕を磨いて、プロになりたいんだ」
「そっかぁ。悠輔はゲームでプロになりたいんだね……」
悠輔ははっきりと夢を口にしてくれた。
たぶん家にいる間、悩みに悩んで決めたのだろう。こうやって資料を作り、母親に提案することだって相当な勇気が必要だったはずだ。
きっと母親として、麻友のやるべきことは1つだけだった。
「わかった。応援する。でもまずは、私にもゲーム業界っていうのかな、もっと詳しく教えてほしいな」
悠輔が悩んで選んだこの選択が、正しいかどうかは分からない。うまくいく保証なんてないし、もっと堅実な道だっていくらでもあるだろう。それなのに応援すると言ってしまうことだって親として間違っているのかもしれない。
しかし麻友が悠輔を愛し続けるということだけはこのさきずっと変わらない。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。