回避できたかもしれない義母との確執
このように、子どものいない夫婦の遺産は配偶者にすべて相続されるわけではなく、義理の親や兄弟姉妹も相続人になります。相続を“争続”にしないためには、前もっての相続対策が必要でしょう。
もし今回、遺産をどのように分けるかを隆さんが遺言書に書いていれば、揉めずに済んだかもしれません。ただ、余命いくばくもない夫に遺言書を書いてとは育子さんも言いづらく、また遺言書があったとしても、自宅に帰る気のない義母に出ていってもらうのは至難の業です。
育子さんが転居を考え始めた「最大の理由」
こうして始まった義母との不本意な同居から2年。いまだに揉めている遺産分割協議と義母との関わりについては弁護士に相談中です。
そのなかで、育子さんは隆さんとの思い出あふれる自宅から出ることも考え始めたと言います。そこで、今後どんな問題が予想できそうか、ファイナンシャルプランナーの筆者がお金の観点から考えてみました。
●育子さんがひとりで自宅に暮らした場合
・住宅ローンの残額は全額保険金で支払われたため、生活費を抑えられる
・築24年になる自宅の修繕が始まる時期。メンテナンス費用を支払う余力がある?
・育子さんの勤務中、柴犬のチャコはひとりで留守番できる?
●義母に自宅を譲った場合
・家賃や引っ越し費用が発生する
・義母に家を譲る代わりに、育子さんが受け取るはずの法定相続分を目安とした「代償金」を請求できる
・賃貸で暮らす場合、定年後に年金と貯蓄だけで家賃や生活費を払い続けられる?
●同居を続ける場合
・水道光熱費などの支出や、固定資産税、メンテナンスなどにかかる費用の分担
・ストレス解消のための支出の増加
・義母が要介護になった場合、同居の育子さんが介護を任される可能性あり
育子さんが最も避けたいのは他でもなく「義母の介護」です。義姉は育子さんに丸投げしそうなタイプだから、早めに逃げておくことが得策かもしれません。一方で、弁護士から義母が「息子が稼いだお金で買った家を、嫁ひとりのものにしたくない」と言っていると聞き憤りも感じました。「隆さんとふたりで大切にしてきた我が家を私だって手放したくない!」と複雑な心情です。
義母には、自分より先に子どもを亡くした辛さがあるのでしょう。ただ、辛さを抱えているのは育子さんも一緒です。育子さんには、守るべき大切なことは何かを意識してこれからの人生を選んでほしいと願います。