家族としての決断
美智子さんはその日の出来事を、これまでたった一人で抱え込んできた苦しさを、夫の亮太に話した。亮太は美智子さんがそこまで思いつめていたことにショックを受けていたが、家族のために一郎を介護施設に預ける決断をする。
施設入所の日、美智子さんはこれでようやく解放されると安堵(あんど)していた。しかし一郎はこれまでになく激しく抵抗をする。
『イヤだ、イヤだ、触らないでくれ……』
「お義父(とう)さんは、すごいけんまくで怒鳴ったり、泣きだしそうになったり、とにかく行きたくないと抵抗しました。私と夫は必死にお義父(とう)さんを説得しました。あのときのお義父(とう)さんの声とまなざしは、今もまだ鮮明に記憶に残っています」
一郎は最近、息子の顔と名前さえ分からなくなりつつあるそうだ。
施設に預けるという選択が正しかったのかは、美智子さん自身、今も分からないという。しかし美智子さんたち家族が穏やかに暮らしていくためにはそうせざるを得なかったこともまた事実だった。
正しさだけでは測れないものがあるのだと、今も2週間に一度、一郎に会いにいく度にやりきれなさを感じている。
※プライバシー保護のため、内容を一部脚色しています。