海の見える老人ホームに入居、心穏やかな日々

不幸中の幸いで、和也の生命保険の受取人は私たちの名義に変えてありました。その死亡保険金と、いずれは売るつもりで名義変更をしていなかった別荘の売却金を元手に、海の見える中部地方の老人ホームへの入居を決めました。当初予定していた高級老人ホームに比べればランクはかなり下がりますが、地方ですから居室は広々としていて、毎日の夕餉を彩る海の幸もおいしく、心穏やかな日々を過ごせています。

手持ちの貯蓄はだいぶ減ってしまいましたが、先行きを心配していたら、主人に「お前、いったいいくつまで生きるつもりなんだ?」と笑い飛ばされました。事業で何度も修羅場をくぐり抜けてきた主人のこの豪胆さや明るさが救いです。

老人ホームから駅前の商店街へと向かう散歩道の途中に稲荷神社があります。朱の鳥居をくぐって階段を上がっていくと、神殿の前に2体の狐の像が鎮座しています。そのこずるそうな切れ長の目を見る度に、どうしても美穂を思い出してしまいます。そして、天国の和也にそっと話しかけるのです。

「和也、とんでもない女狐に出会ってしまったね」と。

●子なし夫婦に“まさか”の大修羅場!? 詳しくは【「なぜ黙っていた!」妻の信じられない秘密に夫激怒…】(本サイト記事)で紹介します。

※個人が特定されないよう事例を一部変更、再構成しています。