「私みたいな女は法律なんて全く分からないだろうと思ってらっしゃるでしょうけれど、これでも、ちゃんと調べてきたんです。和也さんの法定相続人は蒼空だけですよね? それなら、和也さんの遺産は全て蒼空が頂戴するのが筋です。蒼空は未成年だから、親権者である私が法定代理人を務めさせていただきます。失礼ですが、お父さまもお母さまももうすぐ70歳におなりになるわけですから、この先の人生、そう長くはありませんよね? 蒼空は14歳で、これからなんです。天国の和也さんもきっと、『この10年は父親として何もしてやれなかったから、せめてこれくらい援助させてほしい』と思っていますよ」
とても10年ぶりに会った義両親にかける言葉とは思えませんでした。高偏差値のはずの孫の蒼空も、とりすました顔で座っているだけで、何の反応も見せません。言葉を失った私たちの代わりに、諸星さんがとりなしてくれました。
「美穂さん、さすがにそれは言い過ぎでしょう。それに、和也さんの財産といっても、ほとんどはお父さまやお母さまから贈与されたものなんですよ。私は今、お二人に生前贈与をお勧めしたことを猛烈に後悔しています」
しかし、美穂のお金に対する執着は生半可なものではありませんでした。話し合いが長期化する中でとうとう私たちが根負けし、自宅も含めた財産の大半を蒼空に渡すことにしました。「私の力不足で本当に申し訳ありません」。諸星さんは強く責任を感じているようでしたが、それまで私たちのために四方八方手を尽くしてくれた諸星さんを責める気持ちにはなれませんでした。