三男の私立中学をあきらめないならば、奨学金という選択肢が浮上

しかし、教育費を削る選択肢は千里さんにはありません。

となれば、大学費用は奨学金を利用することになるでしょう。千里さんは体調の問題でパートを増やせませんから、お金を借りて収入を増やすしかありません。智良さんは「そうですよね……」と困惑しつつも受け入れている模様ですが、千里さんは、奨学金は「子どもの借金」という思いがあって、できることなら借りたくない様子です。

一方、老後の収入を計算してみると、智良さんの年金は月額22万円、千里さんは8万円、夫婦で30万円ほどになることが分かりました。手取りにすると27万円ほどになると思われますが、「これだけあれば特別な支出がない限り、年金だけで生活ができるね」と千里さんは笑顔で言います。

介護や医療、住宅の修繕など特別な支出にも備える必要はありますが、智良さんの場合、退職金や会社の確定拠出年金で2500万円ほどが見込めるとのことで、これがまるまる使えるのならば、老後の資金はあまり問題なさそうです。

しかし、これを知った千里さんは“ひらめいた”という表情で、「じゃあ、奨学金を借りて、退職金と確定拠出年金で返せますよね?」と言います。退職金を受け取るタイミングと奨学金返済スタートのタイミングは一致しませんが、確かにその方法もあります。一人あたり大学費用を700万円、3人で2100万円と見積もってもお釣は出そうです。

しかし、退職金や確定拠出年金を奨学金返済に充ててしまうと、今度は介護や医療費への備えが十分でなくなる可能性がありますし、退職金が予定通り支払われないリスクもあります。その場合はやはり子どもが返済していくしか方法はないでしょう。お勧めできる方法ではありませんが、千里さんは10年後に会社の経営が悪化しているとは思えないし、良い方法を見つけられたと嬉しそうです。智良さんも、リスクはあるものの千里さんの意見に賛成しました。

そこで、改めて奨学金を借りられる条件や利率、返済を親がすることで老後費用の備えが減るリスクをお伝えし、それを承知の上での奨学金の利用を想定するなら、今からすべきことは、老後に向けての資産形成であることをお伝えしました。奨学金返済後に、できるだけ手元に老後資金が残るよう、今から準備をする必要があります。智良さんの場合、具体的には会社の確定拠出年金の掛金の増額です。掛金を増額し老後資産を補強する必要があります。

智良さんの会社の確定拠出年金では、マッチング拠出が可能でした。現状、月2万円までなら拠出額を増やせるとのことですが、そのためには掛金をどこから捻出するのかが問題です。すると、千里さんが「三男はピアノのやる気がないので、ピアノをやめてその月謝代1万5000円を掛金に充てる」と言いました。60歳まで積み立てるなら、単純計算で180万円ほど増えそうです。

増やした掛金は、現在積み立て中の先進国株式型、先進国REITに2:1の割合で増額することにしました。