児島さんはそれから1週間としないうちに母のマンションを訪ね、母の預金額や、相続を視野に母がそのお金をどうしたいと考えているのか、丁寧にヒアリングしてくれたようです。その後、児島さんの事務所を訪れた私と妹に、児島さんが提案したのは次のようなプランでした。

母の預金は信託銀行に預け、子供が勝手に使えないようにする。そして、その中から毎年100万円程度を私と妹に贈与する。一方、兄夫婦には毎月15万円ほどかかっている母のマンションの月額費用を負担してもらう。さらに、母は遺言書を書き、相続発生時点の財産の6分の1を兄に渡し、残りの6分の5を私と妹で折半する。

相続や贈与に関する知識がほとんどない私や妹に対して、児島さんは、なぜこのようなプランにしたのかを分かりやすい言葉で説明してくれました。

「例えば、将来の認知機能低下などのリスクに備え、お母さまのお金を管理するには成年後見制度という選択肢もあります。ただ、お母さまは香川さんと妹さんへの感謝のお気持ちからおふたりへの贈与を強く希望されていて、これは信託銀行の方がやりやすい。また、お母さまはお兄さまにはご自分の財産をビタ一文渡さないとおっしゃっていましたが、相続人であるお兄さまは遺留分(相続人がきょうだい3人の場合は6分の1)の請求が可能です。それをお母さまにご説明したところ、『あのお嫁さんなら絶対に請求するわね。仕方ないから遺留分はくれてやるわ』と納得されたようです」

「遺留分はくれてやるわ」の言葉には、思わず私も妹も大笑いしました。この提案に兄も異論はなく、母は早速、児島さんのサポートを受けて公正証書遺言を作成しました。