掃除を通して見えた母の愛
思えば佳恵が希美たちの結婚に反対するようになったのは、希美が結婚を機に専業主婦になると言ったあたりからだったようにも思える。ひょっとすると、もし離婚したり、弘幸に何かがあったときに、苦労すると思っていたから反対をしたのかもしれない。
希美はすでに佳恵のことが嫌いだったし、佳恵も厳しくあたってくるばかりだったからケンカになった。もしお互いがほんの少しだけ冷静で、ほんの少しだけ歩み寄ることができていたら、今の関係も少しは違ったのだろうか。
もうずいぶんと昔のことだし、証拠があるわけじゃない。でも自分の学生時代の教科書や絵を大切そうに保管してくれているということは、疑いようのない事実だった。
片づけを切り上げ、階段を降りた希美は居間でぼんやりしている佳恵に声をかける。
「とりあえず上の部屋とリビングは片付けたから。水回りとかお母さんの寝室とかは今度掃除するからね。家から掃除道具を持ってくるから」
希美の言葉に佳恵は無言で応えた。拒絶はされてない。
今はそれだけで十分だと希美は思った。
「あとチャイムが鳴ったからって何も言わずにドアを開けちゃダメよ。ちゃんと相手が誰か確認してね。世の中物騒だからさ」
希美は最後に一言注意をして玄関に向かう。
もしかしたら電話に出なかったのは自分に家に来てほしかったからかもしれない。
そう思うと思わず笑みがこぼれた。
もちろん証拠なんてどこにもないし、本人に聞いても否定するに決まっている。でも希美自身が佳恵に対して前向きな考えになっているのは事実だった。だったらそれでいい。もしかしたらいつの間にか、離れた距離が詰まるようなこともあるかもしれない。
希美は次はいつ来ようかと考えながら実家を出た。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
