十数年ぶりに訪れた実家

翌日、弘幸を仕事に送り出したあとで、希美は隣の市にある実家へと訪れた。

十数年ぶりに目の当たりにする実家の外観は記憶よりも明らかに古くなっていて、希美は疎遠だった時間の長さを実感した。

近づいてみると、老朽化はなおさら目立った。もとは佳恵の両親が建てた家で、希美は佳恵の離婚をきっかけにこの家に移り住んできた。単純にいっても半世紀以上前の建物だ。家をリフォームするような余裕は希美たち母娘になかったから、実家は時間の経過の分だけ崩壊に向かっていた。どこが燃えたのかと見回してみたけれど、古さのためにくたびれているのか、燃えた箇所なのかは、ぱっと見ではよく分からなかった。

玄関のチャイムを鳴らす。しばらくして玄関のドアが開く。開いたドアの向こうには白髪交じりでくたびれた顔の佳恵の姿があった。

佳恵は希美がいることに驚き、すぐに目をそらす。

「何? もう帰ってこないとか言ってなかった? あの言葉は嘘だったってこと?」

おかえりの一言もなく、いきなり憎まれ口を叩いてきた。昔から何も変わっていない。少しでも心配したことを後悔しつつ、希美は口を開いた。

「ボヤ騒ぎがあったって聞いたよ。大丈夫なの?」

「そんなの別にあんたが気にすることじゃない」

そう言って佳恵は家の中に戻っていく。希美は冷たい態度の佳恵に苛立ちを抱えながらも玄関に入った。

部屋の中は荷物やゴミが散乱していた。ひょっとしたら、このゴミが火種になったのではないだろうか。希美は家の惨状に驚きつつも佳恵に質問をした。

「なんで電話に出ないのよ? 心配してるんだから返してくれてもいいでしょ?」

「あんたが心配したからって何になるの? そんなのいちいち相手にしてられない。ただでさえ消防とか警察とかも来て大変だったんだから」

希美は部屋の中を見渡す。ものが散らかっているが焼け跡のようなものは一切ない。

「どこでボヤがあったの?」

佳恵は家の小さな庭を指さす。

「あそこだよ。いきなり庭で火が出てね。聞いたら落ち葉が溜まっていてそのせいでちょっとした火種で燃え広がりやすい状況だったらしいよ。実際に何が火種になったかまでは分からないって言ってたね」

「もっとマメに掃除をしないとダメじゃない。こんな状況じゃ次は家の中が火事になるよ」

「……こんなばあさんが掃除なんてできるわけないだろ。こっちはあんたを育てるために働いてきて、体はもうがたがただよ。なのにあんたは恩も返さずこんなばあさんを1人にしておくんだからね!」

背中を丸めて恨み言を言う佳恵に希美は反論をした。

「最初に私たちを拒絶したのはそっちでしょ……⁉ 私と弘幸の結婚に反対して、それで二度と近づくなって言ったのはそっちなの忘れたの……⁉」

希美の言葉に佳恵は何も言ってこなかった。

久しぶりに会ったが、やはりどうやってもわかり合えない存在らしい。

希美は苛立ちをごまかすように手を動かし、部屋の掃除を始めた。

この状態を放置してまた火事なんかが起こってしまったら、さすがに寝覚めが悪かった。あくまで自分のためであって佳恵のためではないと自分に言い聞かせながら、粛々とゴミをビニール袋の中へと押し込めた。

●友人から実家のボヤ騒ぎを聞かされた希美は、疎遠だった母・佳恵のもとを十数年ぶりに訪れる。相変わらず冷たい態度の母に、希美はいら立ちを覚えながらも掃除を始める…… 後編【結婚に反対され絶縁状態に…数十年後、実家の片付けを通して娘が知った「母の言えなかった本音」】にて、詳細をお伝えします。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。