母から連絡のない不安

夜になり帰ってきた夫の弘幸に希美はボヤ騒ぎの件を話した。

「え? そんなことがあったの?」

「うん。中学のときの友達に言われて恥かいちゃった。それでね、お母さんに電話をしたんだけど全然出てくれなくて。折り返しもないんだよね」

弘幸はうつむいて考えるような表情になる。

「……なんか火事の影響で寝込んでるとかかな? ボヤとはいえ精神的にダメージがあったみたいな」

希美は首をかしげる。

「どうだろ……? あんまりお母さんが弱ってるなんてところを想像できないよ。あの人はいっつも気丈な感じだったから」

「……まあそう見えるけどさ。もう歳も歳だろ? 70は超えてるんだっけ?」

希美は記憶をたぐり寄せて佳恵の年齢を思い出し答える。

「うん、たしか72とか3くらいだったと思うよ」

「……心配だし、明日にでも会いに行ったら?」

弘幸の提案に希美は反応に困った。会いに行くという選択肢は頭の中にあったけれど、実際に提案されると素直にうなずきづらかった。

「……うん、そうだよね……」

「いろいろあったのは分かるけど唯一の肉親なんだしさ。やっぱり会っといたほうがいいよ」

弘幸は少し寂しそうな笑顔でそう言ってきた。

実は半年前に弘幸はお父さんを病気で亡くしていた。お母さんも5年前に亡くなっていて、肉親がいなくなる辛さを弘幸は身にしみて知っている。そんな弘幸に促されたのだから断り切れず、希美は久しぶりに母・佳恵に会うことを決めた。