<前編のあらすじ>
大学に入ってから見た目を変える努力を重ねた樹里。成人式の同窓会で、久しぶりに会った同級生たちから「きれいになった」と褒められ、注目を浴びていた。かつて仲が良かった睦月の姿を見かけたが、1軍女子たちとの記念撮影に夢中になって話すことはなかった。
その後の二次会でもちやほやされ続け、勧められるままお酒を飲み続けた結果、樹里の視界はぐらりと歪み、次の瞬間には意識が途切れた。
目が覚めたは漫画喫茶らしき場所で樹里に二次会の店を出た後の記憶はない。財布もスマホも鍵も見当たらず、途方に暮れるのであった。
●前編【「変わったね」と言われるのがうれしくて有頂天に…成人式で調子に乗った女性が酔いつぶれた翌朝に直面した“最悪の現実”】
やさしさに救われて
ゆっくりと扉が開き、樹里は慌てて振り返った。
「樹里? 起きたんだ」
睦月が紙コップを2つ持って立っていた。片方は湯気が上がっている。髪の毛が濡れているのはシャワーでも浴びてきたからだろうか。
「……睦月? なんでここに」
「まずは温かいの、飲める?」
樹里はうなずき、受け取った。指先にじんわり熱が伝わる。口に含むと甘さの少ない紅茶だった。
「体調はどう?」
「頭痛いけど大丈夫。それよりバッグがないの。財布とスマホも。受付で聞いても届いてないって」
睦月は、ああと頷いて、テーブルの下の金庫を開けた。中には樹里のカバンがそのまま入っている。
「え?」
言葉を選ぶように睦月は大きく息をつく。
「樹里、昨日の二次会でバッグ放りだしたまま潰れちゃって、みんながカラオケとかに移動し始めても寝たまま動かなくて、しかたないから預かってたの」
聞きたいことは山ほどあるはずなのに、喉が乾いて音が出ない。
樹里は睦月からバッグを受け取り、中身を確認した。見慣れた財布、スマホ、家の鍵。全部そろっている。
「睦月、ありがとう。あの、私……」
樹里は睦月に伝えるべき言葉を言おうとした。けれど言葉はあるはずなのに、なかなか出てこなかった。そのうちに、睦月のほうが小さく笑った。
「樹里、お化粧ひどいよ。顔洗っておいで」
