トラブルの結末は…

あれからもう2年の月日が経つがいまだに杉田からの返済はない。すでに杉田は店も閉めて引っ越しまでしており、行方知れず。加藤自身もこの件は忘れたことにしているようだ。

今年の夏、地元で再会した時に加藤は言った。

「タラレバだけどさ、あの時実印で押させていたら杉田もちゃんとお金を返してくれたのかな」

杉田自身、印鑑が認印か実印かどうかを気にしていたのでその可能性は十分にあるだろう。

世間では契約について契約書に押印がなくとも、押印が認印であっても、そもそも契約書が存在しなくとも有効であるということは認知が進んでいる。しかしその点ばかりが先走ってしまい、実務的な部分、すなわち実印の重みや認印の軽さについての認知が進んでいない。

諸兄の中にも契約についての実印の重みを軽んじている者はいないだろうか。

実印の準備は面倒だ。たかが1枚2枚の紙切れに押すために手間だと思うだろう。だが、その手間が将来の明暗を分けるかもしれない。

お金は安易に貸すべきではない。しかし、どうしてもお金を貸す場面があれば、契約書に実印での押印を行うべきだ。これらは絶対にセットであると肝に銘じておきたい。押印の重さを見くびったばかりに悲しい思いをする人が1人でも減ることを私は願っている。

※プライバシー保護のため、事例内容に一部変更を加えています。