裁判に踏み切れなかった現実
案の定と言うべきか返済はわずか4カ月程度しか続かなかった。さすがにこの対応には加藤も堪忍袋の緒が切れたようだ。
「あの野郎、訴えてやる。弁護士を紹介してくれ」
激怒し訴訟に意気込む加藤。しかし、現実は厳しい。彼に紹介する意味も込めて弁護士のM氏を交えて一度話をしたのだが、M氏は現状を次のように分析した。
・弁護士に依頼するなら、着手金だけで少なくとも10万円程度はかかるだろう
・訴訟は下手をすれば1年以上の長期間かかることもある
・仮に勝訴しても相手が支払いを拒否すれば強制執行が必要
・そのうえ杉田には資産がなく、強制執行しても差し押さえるものがなくお金の支払いを受けられず事実上負けの可能性が高い
要は勝とうと思ったら時間もお金もかかる。そのうえ勝ったとしても相手にお金がなければ返済を受けられないということだ。
「勝ってもお金が戻ってこないってどういうことだよ……」
加藤がつぶやくがそれが現実だ。たしかに裁判に勝ち、強制執行ができれば相手の財産を差し押さえられる。しかし、そもそも差し押さえる財産がなければ強制執行は意味をなさない。つまり泣き寝入りだ。無理やり労働に従事させたり、身内の財産を差し押さえたりすることはできないのだ。
M氏からの説明は40分程度だっただろうか。後半、加藤は黙っていたが最後にぽつりと「ありがとうございました。今回はあきらめます」とだけつぶやき、以降はほとんど言葉を発さなかった。