日本で最も使用されている遺言として自筆証書遺言がある。手軽なことから、遺言の作成について考えたことのある誰もが一度は検討する形式だろう。しかしこの自筆証書遺言はさまざまな部分で問題となることがある。今回はそんな自筆証書遺言の押印でもめにもめた吉田家の事例を紹介しよう。
安堵する吉田家だが、一波乱が起こる
吉田家は、兄弟たちの父でもあり今回亡くなった健蔵さん(仮名、以下同)、その妻、すなわち兄弟たちの母の綾さん、そして直人さんと祐樹さんの4人家族だ。
吉田家は長く共働き世帯であり、投資に関心も高い家庭であって、亡くなった健蔵さんの遺産は5000万円を超えていた。
そうなると当然遺言書の用意もしてある。生前の健蔵さんはがんを患っておりある程度の死期を想定していたことから、終活がかなり早い段階から進められていた。
当然、健蔵さんの死後は遺言書を基にして相続手続きが進められることになる。
「じゃあ、開けるね」家族を代表して綾さんが遺言書を読み上げる。内容としては下記のようになる。
・長年自身と綾さんと支えてきた長男の直人さんに全財産の半分を渡す
・残りの半分を妻の綾さんと次男の祐樹さんとで等分
ここで納得いかずに異を唱えたのが次男の祐樹さん。
「待ってくれよ、なんで俺だけ少ないんだよ!」
「お前はその分自由にしてきただろう、親父から支援も受けていただろう? わがまま言うな」
長男の直人さんがたしなめる。一度はしぶしぶ引き下がった祐樹さんだが、遺言書を家族で回し読みしているとき“あるもの”が目に入る。