祐樹さんが認印での押印に疑問を呈す

祐樹さんが目にしたのは末尾の署名捺印だ。遺言書といえば残された家族にとって非常な大きな役割を果たす。ある意味では国が発行する公文書くらいの重さと厳格さを持つものといってもあながち間違いではないだろう。

そんな書面に捺印する印鑑だ。当然、実印ですべきだと誰もが思うだろう。加えて前文と署名まで手書きなのだから、実印が必須だと思うのも無理はない。

「おい! これ実印か? おかしくないか?」

祐樹さんが声を上げる。そして綾さんが続ける「たしかに認印ね」と。

「やっぱり! おかしいよ。こんなの無効だよ!」

祐樹さんが鬼の首を取ったように発言する。それに対して直人さんが冷静に斬る。

「だがよく見ろ、これは親父の字だろう、絶対に」

たしかに筆跡を見ればそうだ、それは祐樹さん含め誰もが認めるところである。その一方で、遺言書という大事な書面で印鑑が認印というのも考えづらい。事の重大さと釣り合っていない。

話し合いをすればするほど対立は大きくなる。「遺言書はあるんだから……」とたしなめる綾さんに「常識で考えろ」とねじ伏せようとする直人さん。それに対して「おかしいと思わないのか?」と感情的になる祐樹さん。

それに耐えかねた直人さんから私に連絡が入る。

「ちょっと友達として相談に乗ってくれないか?」

●遺言書の印鑑は認印でも有効なのか? 直人さんの疑問への答えは、後編【父親が最期の想いを遺した遺言書に「1つの疑念」が…家族間の“泥沼相続”を防いだ長男の行動】で詳説します。

※プライバシー保護のため、内容を一部脚色しています。