仕事人間だった親が定年退職後、スマートフォンにハマり、いくつかのフリマアプリで頻繁に買い物をするようになった。その結果、自宅はモノやゴミだらけ――いわば“買い物依存”になってしまったという相談が最近増えている。

この記事では、クーリングオフや成年後見制度の限界に加えて、買い物依存症の家族を持つ方において大切な「対話の積み重ね」について、実際の事例から切り込んでいく。

定年後の空白がもたらした危険な変化

「父は無趣味な仕事人間でした」

永田さんの話によれば、彼の父・稔さんは、新卒から定年まで一社で働いてきた典型的な仕事人間だった。真面目に仕事一筋で生きてきたため退職後は時間を持て余しがちで、日がな一日、本を読んだりボランティアに参加したりして過ごしていたようだ。

しかし、スマートフォンを持つようになったことで、事態は急変。最初は楽しそうに写真や動画を撮影し、母・美枝さん(仮名)と老後の生活をそれなりに楽しんでいたようだ。ちょうどそのころにネットショッピングを覚えたようで「最近、フリマアプリを美枝と始めてみてな」と嬉しそうに報告してきたこともあったという。

そのあたりで永田さんは新規事業のリーダーとして地方へ転勤となった。そこから数年は激務となったことも相まって、実家にはほとんど顔を出せなくなってしまった。

1度だけ実家に戻ることがあったのだが、それも母の美枝さんが亡くなったタイミングだ。

その頃、心に隙間が生じていた稔さんはフリマアプリで出品や購入を繰り返し、買い物依存状態になっていた。

そんなある日、永田さんは仕事がひと段落し転勤から戻る日程が決まったため、稔さんにも話をしておこうと実家を訪れた。しかし――。

「ドアを開けた瞬間唖然としました」

永田さんに話を聞けば、実家は玄関から空き箱や包装紙で埋め尽くされ、廊下は通路も確保できないほどだったという。

当時の部屋の写真をチラリと見せてもらいはしたが、直視できず私は思わず目をそらした。