<前編のあらすじ>
結婚して7年、毎年恒例のお盆の帰省は、夫婦にとって気が重い行事だった。おとなしい夫の直樹は、実家に着くや否や、母親の美江から「嫁は優秀、息子は無能」とでも言わんばかりに罵倒され続ける。
その様子を見て心を痛めていた妻の詩織だが、ある日、なぜか義母が自分たちの年収を詳細に把握していることに気づく。
この奇妙な事実に直面した詩織は、義母と夫の間に隠された、ある秘密を知ることになる。
●前編:「稼ぎだって大したことないじゃない」夫に冷たくあたる義母の謎…妻が違和感を覚えた“いびつな親子関係”
妻の知らない夫と義母のやりとりが発覚
翌日、朝食を食べてリビングでくつろいでいると遠くから掃除機の音がした。詩織が音のする方へと向かうと、客間で美江が掃除機をかけていた。
「お義母さん、私も手伝いましょうか?」
声をかけると、美江は掃除機の電源を消して首を横に振る。
「いいのよ。詩織さんはくつろいでいて」
「さすがにこれだけお世話になってて何もしないなんてダメですよ。お手伝いさせてください」
「そう? それじゃあお言葉に甘えて、リビングのゴミ箱の中身をゴミ袋に入れてまとめてもらおうかしら。替えのゴミ袋は2番目の戸棚に入ってるから」
詩織はリビングに戻り、ゴミ箱の中身をゴミ袋に移していく。
そのとき、1枚の封筒が目に付いた。手に取って確認すると中身は入っていなかったが、書いてある送り主は見覚えのありすぎる名前――直樹だった。
あの親子が手紙のやり取りなどするだろうか。そもそもメールや電話があるこのご時世に文通をする理由が分からない。何か後ろめたいやり取りをしているのではないかと、詩織は直感的に思った。
封筒の中身は、ゴミ箱には入っていなかった。詩織はテレビ横の飾り棚に目を付けた。そこには古めかしい三段の引き出し収納が置かれている。封筒の中身を保管しておくにはうってつけのように思えた。
詩織は掃除機の音に注意を払いながら、引き出しを開けた。そこには透明のファイルが重ねられている。確認するまでもなく中身を見てしまった詩織は、思わず言葉を失った。