家族の信頼を大きく揺るがす「監視の証拠」

ファイルには詩織と直樹が利用している家計簿アプリの収支画面をプリントアウトしたものが収められていた。ファイルを確認すると1カ月分の収支が収められている。

こんなものを美江が手に入れられるわけがない。確実に直樹が送っているに決まっていた。

詩織はファイルを握りしめて、直樹がいる部屋に入っていく。部屋にいた直樹は詩織がファイルを持っているのを確認して、青ざめた。

「そ、それって……」

「どういうこと? なんでお義母さんがこんなものを持ってるの? あなたが送ったんでしょ?」

詩織が問いただすと直樹は申し訳なさそうに説明を始めた。

「……ごめん。母さんから言われて……」

「何でよ? どうしてこんなことをするの? 断ればいいでしょ?」

「……最初は心配だからとかそんな理由で給与明細とかを送れって言われたんだ。でも俺も最初は断ってたよ。詩織の分まで送れって言われたから」

詩織は咎めるように直樹を見据える。

「毎日のように電話がかかってくるんだ。しまいには職場にまで電話をかけてきてさ。周りを巻き込んで俺を追い込むのはあの人のいつもの手段だから。それでことが大きくなるくらいなら送った方がいいかなと思って……」

そんなことなら、どうして相談しないのかと、詩織は怒鳴りたくなった。けれど直樹からしてみればどうしようもなかったのだろう。直樹は美江に支配されているのだ。

「分かった。でも知った以上、私からお義母さんに話をするから」

「い、いやでも……」

直樹は心配そうに止めに入る。しかし詩織はそれを無視して部屋を出た。掃除をしていた美江をリビングに呼び、ファイルの中身を突きつける。

「……それ見たのね。あんまり人の家の棚を漁るもんじゃないと思うけどね」

「それは、すいません。でも、人の家の給料だってこうやって探ったり、管理したりするものじゃないと思います」

美江はため息をつく。

「……私はね、あなたたちを心配して」

「ありがとうございます。でももう大丈夫です。見て分かるとおり私たちはしっかりと稼いでますし、貯蓄もあります。心配されるようなことは何もないんです」

詩織はきっぱりと言い切る。

「……でもね」

「心配される気持ちは分かります。なので、お義母さんのお気持ちだけは頂戴します。でも私たちのプライバシーに踏み入るようなことはやめてもらいたいです。……直樹にこれ以上変な要求をしないで下さい」

美江はしばらく黙り込んだあと、深くため息を吐いた。まるで自分が被害者だとでも言いたげな態度に、詩織はにわかに苛立った。

「……分かったわよ。こっちは好意でやってあげてたのにそんな言い方しなくてもいいじゃないの」

「好意? 前から気になっていたんですけど、好意じゃないですよ、それ。直樹さんのこといつも馬鹿にして、当てつけみたいに私のことを持ち上げて。それで私が喜ぶと思ってたんですか? 私、ずっと不愉快でした」

「な、何よ、ちょっと仕事ができるからって調子乗って……!」

美江は声を荒げたが、詩織はそれをさえぎるようにファイルの中身を細かく千切り、ゴミ箱に捨てた。