父の希望は実家を妹に残すこと
父は私たちの前に自分の財産の状況を手書きした紙を広げ、ざっと説明してくれました。それによると、郵便局や銀行などへの預貯金の残高が2500万円ほど、生命保険が2000万円。実家は敷地50坪ほどの狭い一軒家ですが、最近の地価の上昇を受けて固定資産税評価額は1億円を超えていました。
父の希望は、その実家を独り者の妹に残してやりたいということでした。そして、相続税が発生するので預金と生命保険から相続税や登記の費用などを差し引いた額をきょうだいで折半する形ではどうかと提案してきました。
正直、私はそれまで父の相続についてあまり考えたことがありませんでした。
先に亡くなった母には個人名義の預貯金がほとんどなく、生命保険から下りた死亡保険金の一部を受け取っただけでした。そもそも、資産家というわけでもない親の金を当てにしても仕方がないという思いもありました。
まさか実家の評価額が1億円を超えているなんて想像もしていませんでした。
妹も父の意向をこの時初めて聞いたらしく、驚いた様子でした。
「で、どうかな。同居する子供が相続すれば、土地の評価額がかなり減らせるようだし(小規模宅地等の特例)。大介がそれでいいと言ってくれるなら、今の内容で遺言を書こうと思っているんだけど」
父の畳みかけるような言葉に、隣で妹がぐっと息を飲む気配がありました。
まぁ、親父がそういうなら仕方ないか。
妹には母さんのことで世話にもなったし。
私が口を開きかけたまさにその瞬間、後ろからよく通る妻の声が聞こえてきたのです。
「お義父さん、それはちょっと、おかしくないですか?」
●家族間の相続会議に参戦した妻。気になるその後の展開は……? 後編【時価1億円超の実家をめぐる相続会議に妻参戦…77歳父の不平等すぎる相続提案を覆した“正論”とは】で詳説します。
※プライバシー保護のため、事例内容に一部変更を加えています。