突然の悪天候でフェリーの運航は中止に…

「なんか……暗くなってきた?」

「今夜から崩れるとは言ってたけど、早いな」

大志が腕時計を見ながらつぶやく。

港に着くと、ターミナルの前に人が集まっていた。何事かと周りを見渡していると、アナウンスが響いた。

『本日、台風接近のため、すべてのフェリーは欠航となります』

途端にざわめきが広がる。不安そうに璃子が志保を見上げた。

「ママ……本島に帰れないってこと?」

「そういうこと、みたいね」

璃子の手前、落ち着いて答えたが、心の中は波立っていた。

空はもう完全に鉛色になり、海面はざわめきを増していた。潮風が湿った熱気を運び、遠くで雷鳴が低く響く。

旅行の最後を飾るはずの穏やかな午後は、いつのまにか台風の予兆に塗りつぶされていった。

志保たちは雨粒を全身に浴びながら駆け込み、ぬれた靴底でホテルのロビーの床を汚しながら立ち止まった。中は蒸し暑く、人でごった返している。フロントにできた行列は長く、スタッフは慌ただしく対応しながら、何度も頭を下げていた。

「すみません。先ほどチェックアウトした植田です。もう1泊お願いしたいんですが」

大志がカウンターに身を乗り出すが、スタッフは申し訳なさそうに首を横に振った。

「申し訳ございません。本日、台風接近により離島からの便がすべて欠航となっておりまして、すでに満室でございます」

「そこをなんとかなりませんか?……料金を倍払うので」

唐突に口にされたその言葉に、志保は横で目を丸くした。スタッフは困ったように視線を落とし、「大変ありがたいお申し出ですが……」と丁寧に断る。まるでテンプレートのような謝辞が続き、結局はどうにもならなかった。

「大志、これ以上言っても仕方ないわ」

志保は小声で諭した。

「お金の問題じゃないの。ほかのホテルを探しましょう」

彼は唇を噛み、「わかってるよ」と言いつつ、不満げにスマートフォンを取り出した。